川島むーのお茶祭り日記

お茶祭り企画代表、川島むーの心に映り行くよしなし事を、あれこれと

読了『海の底』

 ……書くのが追い付いてないなぁ。もう『クジラの彼』も読み終わっているのに……

 読了『海の底』(有川浩 角川文庫)。
 自衛隊三部作の三作目。

 三作の中で、荒唐無稽に見えて、一番リアリティーがある作品と思いました。
 横須賀に突然、巨大ザリガニの大群が現れ、次々と人が食われると言う、どう見てもウルトラ警備隊が出てきそうな展開。でも、その理由がちゃんと説明される事で、ありうるかも、と思わせられるのだ。

 怪獣映画的パニックが描かれる一方で、潜水艦に籠もる事になった若き自衛官と子供達は「中学生日記」か!な展開。
 地上では、自衛隊を出すの出さないの、武器は使っていいの駄目なのと言う、もう、実際に起きそうなぐだぐだと、それを何とかしようとする人達の戦い。
 本来の役割(治安維持)を越えた仕事をせざるをえない機動隊。自衛隊さえ出てくれたらこれほどの犠牲は出さずに済んだはず。
 一方で、本来の役割を担わせてもらえない自衛隊(命令が無ければ動けません。まして、火器使用ともなれば)のジレンマ。
 ただザリガニと戦うって話ではない。そこには、今、現在の自衛隊の置かれている状況への問題提起がある。

 でもって、ほんのり、恥ずかしいぐらいに不器用な恋物語も展開。きゅん!

 子供のいたらなさと、かっこいい兄貴的な若者。でも、彼らも至らない若造であることを示す、確かな大人の存在。これも有川浩作品の魅力であると思う。
 個人的には、中学生の圭介君が気になる。彼の親との関係って、あそこまで極端でなくても、多くの子供が経験しているのではないかしら。多かれ少なかれ、存在する問題。ようやっと気付き、必死でそこを乗り越えようとする姿がいじらしい。記者たちに、ああ言う態度を取って事態を回収した彼をなでなでしてやりたかったよ。うん、君はやっぱり、頭が良い。そして、ちゃんとそこに気付いてくれる友達が居た事に、救われた思いがしたのでした。
 だから、これは、圭介君の成長物語と読む事も出来るのだな。

 あと、こっちに越してきた事で横須賀の基地を身近に感じるようになっていたので、地図見ながら、出てくる場所を確認したりしておりました。

 そうそう、この物語は、名前も大事なポイント。一部、大阪・兵庫あたりの人間だけが「ん?」と思う遊びもございます。
 
 さて、あとは短編集『クジラの彼』の感想。で、『ラブコメ今昔』だな。