座・高円寺に、嶽本さんあゆ美さん脚本の『太平洋食堂』を見に行く。
3時間の大作。日露戦争開戦の年 、和歌山の新宮市で、医師大星誠之助が開いたレストラン太平洋食堂、そこに関わった人々。社会主義、言論統制、大逆事件。時代の渦な中で生き、死んでいった人々の姿。
これは、現在の姿では無いのかと、すっと肝が冷える瞬間がありました。静かな警鐘。
でも、それがだけじゃないよね、と思う。迷い、悩み、理想通りにはいかずジタバタする人の姿がいとおしい芝居。
太平洋食堂オープンの日、大星の言う「太平なる海に平和の灯を浮かべ万民が共に食卓を囲む」テーブル(食べ物の前での平等)と言う思いは、思い通りには伝わらない。メインディッシュに至らぬまま終了。このあたりの、掲げる理想と現実の噛み合わなさに、宮沢賢治のシダバタを思い浮べてしまいました。
そして、がむしゃらに迷い、進み、悩み、自分の無力に歯噛みする僧・高萩懸命の姿がたまらない。登場するたび、微笑み、泣きたくなるのでした。
社会主義を標榜し、若者をサポートし、幸徳らと交わり、和歌山と言う地で大いなる海を前に生きる大星は、どこか楽しげで、だからこそ、大逆事件に巻き込まれていく姿がつらい。ロクな証拠もないままに処刑されていった人々。改めて、この事件について考えさせられました。
休憩ありとは言え、3時間はいささかきつかったですが、良いものを見せていただきました。
そうそう、食べ物が美味しそうな芝居でもありました。ええ、終演後、駅前のパン屋さんに入りましたとも。
登場人物は、一応、実際の名前とは少し変えています。……大石さんが大星さん……うん、そうね、大石と言えば大星ね。小さく、ツボ。
冒頭でのトランク吹っ飛びは、ちょっとヒヤリ。