川島むーのお茶祭り日記

お茶祭り企画代表、川島むーの心に映り行くよしなし事を、あれこれと

ねずみばあさんとホタルブクロ

「そこにいるのは だれだ? わしは ねずみばあさんだぞ。」

 大好きだった『おしいれのぼうけん』。
 もう、何度読んだかしれない。やんちゃな男の子ふたりの冒険。閉じ込められた押し入れの中から覗いた世界、押し入れの中の壁のシミがあやしいものに見えてくる感覚、保育園の先生のとまどい、ねずみの世界に入った時の空気、ひとつひとつのシーンがどれも素敵。導入とラストの対比が鮮やか。今も愛される物語。

 でもね、私がそれよりも好きだったのは『大きい1年生と小さな2年生』。
 体はとても大きいのに弱虫の1年生の少年と、体は小さいけれども気が強い2年生の少女。友達になった二人。少女の思いを知った少年が勇気を出して踏み出す。それは、子供にとってはとてつもない大冒険。
 それぞれの抱えるコンプレックスだったり憧れだったり。なんでこの作者はこんなに子供の思いを判るんだろう。と、これは大人になって読み返したときに思った事。
 二人が出会うシーンがとても、いい。弱虫だけれど「ぼく、1年生なんだ」と、ちょっと強気な気分も芽生えた少年。小さな女の子が二人で遊んでいるそばをうろうろし、「ぼく、1年生なんだぞ」と言ってみる。「ふ〜ん、あたしたち2年生よ」「あんた1年生のくせに大きいわね」。
 この瞬間の少年の、鼻っ柱ぽき〜ん、しまった〜と言う、しょんぼりな気持ち。あの、声も出せない感覚がぐっと迫ってくる。絶妙なシーンです。ここを読むたびに、胸がぎゅっとなるのです。
 切通しの道や、ホタルブクロの紫の花は、この物語とセットで刷り込まれています。

 ひとりで冒険してみることは大切。でも、どうしても困ったら、誰かに助けを求める事も大事。その事が次の勇気に繋がる。そんなことも教えてくれる。
 と、ここまで振り返って気が付いた。20代の頃の一人旅。その中で、思い切ってお願いをして助けてもらった事が何度かあるけれど、その一歩を後押ししてくれていたのは、この物語だ。この物語で、確かに私はその事を学んでいたんだ。後から、なんであんなこと出来たんだろう、と思った自分の行動の原点。そうか。
 
 そして、この物語を読むと、カルピスが飲みたくなるのですよ。

 古田足日さん、大切な物語、ありがとうございました。合掌。



 追記。
 今、子供たちに関わっている立場で、改めてこの二つの物語はとても大切だと思う。子供の見ている、感じている世界。子供同士の関わり、成長する力。子供だけではなく、先生や親、大人にも読んでもらいたい物語だと思うのです。