維新派の最後の公演『アマハラ』@平城宮跡を観てきました。
廃船を模したと言う劇場。開演時間は、日没の時間を計算している。開演時間が迫る中、劇場の向こうに鮮やかな夕焼け。この場所にこだわった松本雄吉さんが見せたかった景色。
ぽつりぽつりと白い少年が舞台に姿を現す。陽が落ち、暗くなるにつれ、気温が下がる。備えはばっちり。膝にかけたポンチョを、足にしっかり巻き付ける。ギシギシと言う、木の客席の音が心地良い。
日本の、海を渡る人の歴史。渡って来た人、渡って行った人。奈良には渡って来た人がたくさんいたことが語られる。それは、この場所への言祝ぎ。
十代の頃に井上靖『天平の甍』を読んだ際、奈良の大路を主人公が中国語で渡来人と会話をしているのを人々が羨望のまなざしで見る、と言うシーンがあり、それはとても新鮮な印象だった。古代の都のイメージがとても鮮やかになった瞬間。それを思い出す。
海の無い奈良が、どこよりも海と繋がっていた歴史。
それがすっかり忘れられ、都であったことも忘れられ、草原が広がる。
時は流れ、移民として海を渡る日本人の物語。そこはどこですか、そこはいつですか。あっちに飛び、こっちに飛びながら、移民の歴史が語られる。やがてそれらすべてを飲み込んでいく戦争の音。
来る人去る人帰ってくる人帰っていく人帰って来れなかった人。それらが混然一体となる。誰そ彼、黄昏時を経て、人は見分けがつかなくなる。ここにはきっとみんないる。
また会えるかな、また会いたいな、また会えるよね。
それは、祈りと確信。
客席のどこかに、松本雄吉さんが居て、楽しそうに舞台を観ているような、あの役者たちの中に紛れているような。
舞台に向かって「お〜い」「お〜い」と呼びかけたくなる。手を振りたくなる。
都であったことを忘れられた、奈良の草の海原が金色に輝き、廃船の劇場は漕ぎ出していく。