川島むーのお茶祭り日記

お茶祭り企画代表、川島むーの心に映り行くよしなし事を、あれこれと

『異人の唄』を観る

ochamatsuri2007-11-19

 昨日は、観劇。新国立劇場へ。ようやっと、この劇場に足を運ぶ機会を得たのでした。十年前は無かったもんなぁ。ちょうど話が出ていた頃で「劇場よりも稽古場を!」と言う声が上がったのだったっけ。そう考えると、この十年の東京の演劇状況の変化は大きいなぁ。劇場、稽古場施設が次々と…。

 って、その話は置いといて、昨日観たのは『異人の唄−アンティゴネ−』ギリシャ悲劇である。

 ちょいとギリギリだなぁと思いながら湘南新宿ライン。「間もなく新宿〜」の声。スピードが落ち、客は立ち始め、電車が止ま・・・あれ?まだホームじゃない。「ホームにて警報音が鳴っておりますので、停車しました。」なんだと〜!と焦る、相方と私。
 5分前につくと思ってたのに、新国立劇場の入り口に着いたのが開演時間。初めてなので、「中劇場はどっちや?」とキョロキョロしていたら「中劇場は間もなく開演いたします正面階段を・・・」とお姉さんの案内の声。うわ〜とダッシュ!やれやれ、開演時間が押してくれたお陰で、汗を拭くことも出来ました。一息ついたら、開幕。


〜以下、ネタバレの恐れあり。これからご観劇の方は、ここまででお帰り下さいませ〜







 舞台は、一面の砂。中央奥に、やぐら。客席からあらわれ、ゆっくりと歩いて行く、白い衣装に帽子を目深にかぶった裸足の女。砂に残る足跡。ここは、海?やがて、一人、また一人と黒い衣装の男達が現れる。コロス。男達の動きは、あぁ、井出茂太さんの振り付けなのね。しなやかに、砂の上を舞う。
 この段階で「重たい芝居だ、覚悟しな。」と言う空気が劇場に充満する。こんな簡単な言葉でまとめたくは無いけれど「格好いい!」。

 唄を歌うことを禁じられた、伝説の歌い手の娘が二人。禁じたのは母の兄。すでに年老いて、不自由な身の伯父の面倒を見続ける姉、そこから逃れたいと思う妹。外の世界へといざなう若い男と年老いた男。
 表に表れた性格は違う、けれども確かに同じ一本の線の上で危ういバランスで立っている姉妹を演じるのは土居裕子さんと純名りささん。
 姪を自分の手中に収めておこうと苛立つ伯父はすまけいさん。
 若い男は小林十市さん、年老いた男は木場勝己さん。

 この顔ぶれだけで、十分ご馳走様なわけだが。休憩込みの2時間20分、このキャストでキリキリとこちらの胸を締め付けて行く。幕切れが、少々あっけない感じもしたのだが、ここでもう一押しされたら、ちょっときつすぎるのかな、と後で思う。

 純名さん(昔教えに行ってた高校のご出身なのね。教えていらした先生方は、やたら自慢げに語っていたなぁと思い出す。)は、好みの役者さんでは無いのだが、やはり、お見事。すっと立った時の姿が美しい。ラスト近くで、ついに歌い始めるシーン。華のある妹である彼女の口から溢れてきた声は、以外に逞しく、心地よい。その声が作った空気を包み込んで、更に豊かに歌い上げる土居裕子さん。この姉妹のキャスティングは、ひとえに、この一曲のため。

 緊張感に溢れ、悲しみを湛えた役なのに、どこか可笑しさを感じさせるのは、木場さんと言う役者故か。
 対するすまけいさんの怖いこと怖いこと。

 そして、コロスの存在が、大きい。台詞だけでなく、身体表現で、シーンを(空気を)換え、話のスピードを換えていく。このシャープな動きが無かったら、重たすぎて耐えられないだろうな。

 そんなこんなで、ドーンとお腹にこたえるお芝居でありました。
 あ、蜷川さん的ギリシャ悲劇を求めるのは違うだろうなと思う。あの華やかに重厚なのもいいけれど、こっちは、 もう少し、日常に近いところにある気がする。

 終演後、相方はどうにも砂が気になるみたい。まぁ、気持ちは判る。昔、アイホールで一面に砂をまいたから。照明で乾くので、砂埃の処置が大変やったね。と言うことで、どういう砂を使っているのかを知りたかったみたいだけれど、係りの人がしっかり立っていらっしゃるので、触ること出来ず。気になる〜気になる〜・・・って、最初の感想がそれすかい?