『太陽の塔』(森見登美彦 新潮文庫)
お洒落度では神大にかなわず、頭脳では京大にかなわず、阪大は中途半端。などと言う都市伝説?もあったなぁ、と思う阪大出身です。文句あっか?!
だからって、京大生が皆、モテモテな訳では無い。まったくモテない、イケてない京大の学生達の、悲しく可笑しい日々を空想妄想たくましく描く。
ジェットコースターに乗せられてるような勢いで言葉が畳み掛けてくる。ちょっと理屈っぽく持って回っているのに機関銃とでもいいましょうか。いささか苦手だなぁと思いつつ、勢いに乗せられて一気に読み進めてしまいました。
「失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ」とは裏表紙の言葉。
……いや、もう、これは男だけではないでしょう。なんか、自分の学生時代を思い出して恥ずかしくなったわ。学生時代に読んでたらなぁ、もうちょっと自分を冷静に見られたかも……んなわけないか。て言うか、私が学生時代に作家・森見登美彦氏は存在しておらん。うん、そのころ彼はまだ小学生だな。って、それぐらい時代差があるのに、学生の姿は変わらんのですね。
恋人の居ないクリスマスは寂しい、と言う強迫観念に負けまいとする男の子たち。
いいなぁと思ったのはここ。
「…御蔭通りを振り返ると、そこに並ぶ街灯にも電飾がほどこされていることに気づいた。……街を怪物が闊歩している……クリスマスと言う怪物が……田中神社の祭神、大国主命も、ここまでクリスマスの侵入を許してしまわれたことを、どれほど無念におもわれていることであろうか」
笑った笑った。これが最初の方にあったので、勢いに乗せられたかな。
後半の飾磨君のアンチクリスマス演説も、良い。
でも、なにより表題の「太陽の塔」。太陽の塔への愛が語られるのみならず……おいおい、その立ち入り禁止の芝生に入ったらあかんやろ〜と、リアルに突っ込んでしまう。いや、そうじゃなくて、がっつり民族学博物館(みんぱく)が出て来るのだな。おお〜と声を上げてしまった。で、「貸し切り状態で見物できることなど一生あるまい」とあったが……いえ、悲しいかな、閑散としている時は、ほんと、閑散としていて……遠足オフシーズンの平日とか、ね。と思わずつぶやく。
そして、パティオの上に見える黒い建物で四角く切り取られた青空が描かれていて、キュンとなったのでした。うん、手に取るように判る、あの気持ち良さ。
もう、みんぱくと太陽の塔に関しては冷静でいられないのだ、私は。
なんだか情けない男の子たちを描いているのに、どこか爽快感があって。
いささか苦手かなぁと思いつつ、いや、もう何冊か読んでみようよ、と思うのでありました。