川島むーのお茶祭り日記

お茶祭り企画代表、川島むーの心に映り行くよしなし事を、あれこれと

徒食の罪

 いや、もう、相方の家出準備のバタバタで、あれも見たいこれも見たい、あちらのお誘い、こちらのご案内……もう、いささかパニック。予定表にらみながら、劇場への所要時間やらなんやらを計算しながら、これは行けそう、これは無理か、と四苦八苦。
 と言う中で、先日、てがみ座「対岸の永遠」を観て来ました。
 
 長田育恵さんの作品は、昨年、グループる・ばる『蜜柑とユウウツ - 茨木のり子異聞 -』で観ていて、この方の主宰されているてがみ座の公演も観てみたいと思っていた所、JETつながりの西田夏奈子さんが出演される、しかも詩人の物語である、と言うことで、もう、これは観に行かなくては、だったのでした。

 ソ連からアメリカに亡命し、やがてノーベル文学賞を受賞した詩人ヨシフ・ブロツキーをモデルにした物語。
 父は自分たちを捨てて行ったのだと思っている娘が暮らすのは、1999年のサンクトペテルベルク。ソ連が崩壊した、かつてレニングラードと呼ばれた街。自由、資本主義に翻弄される人々の暮らし、チェチェン紛争
 父の遺品を持って、アメリカから青年がやってくる。残された手紙から浮かび上がる、父の姿。その思いに、少しずつ、わだかまっていた時間がほぐれて行く。

 あたたかなラスト。決して、人々の置かれている状況の厳しさが解決されたわけでは無い。それでも、人は、相手を思いやったり、受け入れたり出来るもんだよ、と。大丈夫だよ、と言ってくれている。そんな気がした。

 これは、詩人である死んだ父を演じる半海一晃さんの存在感が大きいなぁ。見えない存在としてそこにいるたたずまいと、生きている時のたたずまいの違い。困ったように微笑んだり首を傾げたり、ちょっとしたしぐさが、なんとも愛おしくて。

 全体を観ていての心地良さは、言葉に対し丁寧であること。脚本も役者も。体力仕事をした後で、開演前の客席でいささかうつらうつらしていたのだが、そんな眠気を綺麗に取り払ってくれたのでした。

 そして舞台は、時々過去にさかのぼるが、1999年。決して遠い日ではない。モデルとなったヨシフ・ブロツキーの年齢は母と同じ。だから、その娘であるヒロインの年齢は、決して私とは離れていない。同じ、時代を生きている。遠い国の話だけれど、遠い出来事ではないのだ、と。そこに思いが及んだ瞬間から、舞台で起こることが、生々しく迫ってきたのでした。


 それにしても、「誰があなたを詩人と認めたのですか」とは、耳が痛い台詞だわ。いたたた。「誰が詩人と認めたの?」「誰が役者と認めたの?」(後者は親に言われたことがあるな)。

 間違いなく「徒食の罪」に問われていしまいますよ、私は。……そんな罪がある事に驚きます……